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「――別に、足りなかったら普通のやつを使えばいいじゃないですか。この間、通販で買ってたでしょう。知ってるんですよ」
長身の男のスーツの裾を掴んだ童顔の男が、うつ向きながら呟いた。下を向いてはいるが、髪の隙間から見えている耳が赤い。
「あれは、どんなものだろうかと試しに買ってみただけだ。確かに香りはするが、味がしなかった」
「――――は?」
長身の男の言葉に、童顔の男が顔を上げた。
「君、舐められるの好きだろう? もちろん私も好きだが、味があった方が楽しみが増すじゃないか」
「な……な、何を……久志さん……」
「最中にコーヒーゼリーが食べたくなったら、私とキスするといい。そうすれば一石二鳥だぞ?」
なかなかいい考えだと言っている長身の男の隣で、童顔の男が固まっている。
二人の会話から、葉月はコーヒーゼリーがどのように「使われる」のかを何となく察した。
「ありがとうございました」
会計を済ませ、二人が店を後にする。
店を出る二人を葉月が何とはなしに見ていると、長身の男の方が店内に戻ってきた。
「いらっしゃいませ」
男は迷うことなくデザートコーナーへ行き、コーヒーゼリー二つを手にレジへとやって来た。
「二百五十九円です」
「――これで」
葉月がコーヒーゼリーを袋へ入れている間に、男が千円札をカウンターに置いた。気のせいか、機嫌が良いように見える。
「七百四十一円のお返しです」
男はお釣りを受け取ると、軽い足取りで店の外で待つ童顔の男の所へ駆けて行った。
店の外では、袋の中を確認した童顔の男が顔を真っ赤にしながら、長身の男に何やら怒っている。
「あー、あと一回ならいいと言ったのに、彼氏が二回分買ったってところか」
ひとしきり文句を言って、気が済んだのだろう。童顔の男が恋人のスーツの裾を掴み、今度こそ二人並んで帰って行った。
「――今日、バイトが終わったら二宮さんの所に迎えに行こうかな」
仲の良い二人のことを見ているうちに、恋人の顔が見たくなった葉月は、彼の職場にコーヒーゼリーの差し入れをしてみようかと、こっそり考えた。
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