6 遺失物 その1

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 ここひと月あまり、社内で昼食をとる際には必ず夏樹と同席していた久志が今日は現れない。  KONNOの役員である久志も忙しいのだろう。  無表情でありながら、昼食時は自分の膝の上に乗せるなど、やたらと久志は夏樹に構いたがる。  久志とのやり取りに周囲が慣れてきたとは言え、やはり他人の目は気になる。正直どう対応すればいいのか困っていたため、夏樹は久しぶりにゆっくりと昼食をとることができた。だが、いないならいないで何となく物足りなさも感じる。 「――それで、今日とかどうかな」 「うん、いいんじゃないか? 俺は大丈夫。夏樹は?」 「…………っえ? 何?」 「何ぼけっとしてるんだよ。今日、山下くんと飲みに行こうって話だよ」 「ああ、特に予定もないし大丈夫だよ。こら、修一やめろって」  食後にコンビニで買ったコーヒーゼリーを食べていた夏樹の髪を修一がくしゃくしゃと掻き回した。  いつもの修一のスキンシップに夏樹が苦笑いをしながら、頭に乗った修一の手を払い除ける。 「二人は仲が良いんだね」  夏樹と修一の向かい側に座っている山下がからかうように言った。 「夏樹とは高校の時から一緒なんだ。こいつって色々と危なっかしいから、お兄さんは目が離せないんだよね」 「何がお兄さんだよ! 同じ歳じゃないか」 「俺はお前のことが、可愛い妹にしか見えないけど」 「うるさい!」  目の前でじゃれる夏樹と修一の二人を山下がテーブル越しに眺めている。 「そうなんだ。親友って感じなんだね」 「まあね。それじゃあ、俺も夏樹もOKだし、店は本当に任せてよかったのか?」 「うん、いいよ。おすすめの所があるんだ」 「よし、決まりだな」  久しぶりに仕事抜きで飲みに行けると修一が張り切っている。 「松本くん、食べ終わった? 僕のもあるからついでに捨ててくるよ」 「あ、悪い。ありがと」 「先に戻ってていいよ。僕は後から行くから」 「じゃあ、後でなー。山下」  夏樹が食べ終わったコーヒーゼリーの空き容器を手にした山下を後に、夏樹と修一は一足先に社員食堂を出て行った。  ゴミ箱の前に立った山下がコーヒーゼリーの空き容器を捨てる。だが、夏樹が使ったプラスチックのスプーンはゴミ箱には捨てず、山下は何食わぬ顔でズボンのポケットにそれを仕舞い込んだ。
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