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「そうではなくて、松本くんは変質者に対する勘が働くというか、自然と危機を回避している節がありますね。だからあの年になるまで何事もなく無事にいられたのかと思いますよ」
「……」
久志にも思うところがあるのか芹澤の考えに反論することなく口を噤んだ。
芹澤の考えはある意味間違っていないが、実際はちょっと違う。
確かに夏樹の変質者レーダーはかなりの確率で不埒な目的で夏樹に近づく輩を見つけ出す。
だが、それらの輩を見つけ出した所で夏樹自身が変質者から身を守る術を持ち合わせていない。
夏樹のことをつけ狙う輩と同じくらい、幼い頃から夏樹のことを守ろうとする人たちが彼の周囲に存在したのだ。
幼稚園の頃のけんいちくんに始まり、小中高と夏樹の守ってあげたいオーラに惑わされた誰彼が常に夏樹の周囲にいた。
今は修一がそれにあたる。
普段はそれほど世話焼きでもない人の庇護欲をくすぐる夏樹の守ってあげたいオーラ。
それを幼い頃から無意識に発している夏樹はある意味最強である。
「芹澤」
「はい、なんでしょうか?」
「…………笑うな。それと……今日はありがとう。これからも宜しく頼む」
ばつが悪そうに言う久志に芹澤がミラーへ目をやると、後部座席に座る大きな子供が難しい顔で窓から外を眺めている。
どうやら隠れて笑ってしまったことが久志にばれていたようだ。
幼馴染みが見せる外面とのギャップに堪えきれなくなった芹澤は、久志がいるのもお構い無しに声をたてて笑ってしまった。
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