970人が本棚に入れています
本棚に追加
「はあっ!? 盗聴器?」
隣の席の修一が、一応仕事中なので声のトーンを抑えて驚きの声をあげた。
「……うん。あと、カメラも」
「おい、それって留守の間に誰かが家に入ったってことだろ? 何か盗まれたとかは?」
「それは大丈夫だった。元々お金になるようなものも持っていないし」
ばつが悪そうに笑う夏樹に修一が心配そうな顔を向けた。
実害がなかったとはいえ、盗聴器だけでもじゅうぶん物騒だ。
「大丈夫って……何も盗られてなくて盗聴器だけの方がヤバくないか?」
「うん。だけど昨日のうちに鍵も交換したし、鍵だってなくさないように対策ばっちりだし。俺だって男だよ、そんなに心配しなくても大丈夫だって」
ちょっと得意げな顔をした夏樹が首元からチェーンを引き出し、チェーンに通した鍵を見せながら言った。
――こいつは全然わかっていない。
自分のことを大人だ、男だ、などと言っているが、社内で夏樹のことを大人の男だと認識しているものなどいない。
その証拠に総務課の女子社員らから差し入れといって夏樹だけがお菓子を貰い、嬉しそうにお菓子を受けとる夏樹の様子をまるで孫を愛でるような目で営業課の好好爺である小山が眺める、というのが最近の日課となっているのだ。
もちろん、そんなほのぼのとした光景を止める無粋な者もいない。
「お前が大丈夫ならいいんだけど……何かあったらすぐに知らせろよ」
「わかった」
出した鍵を胸元に仕舞い、夏樹は修一の言葉に力強く頷いた。
夏樹が首から提げたチェーンは、昨夜鍵の交換をした際に久志からもらったものだ。
鞄の中に入れておくよりも身に付けていた方が安全だと言われて渡された。
首から鍵を提げるなんて、最初は鍵っ子の小学生みたいで嫌だとつけることに抵抗していた夏樹だったが、これが使ってみると案外便利なことに気づいた。
最初の抵抗はどこへ行ったのか、この便利アイテムを夏樹はすっかり気に入ってしまい、早く誰かに見せびらかせたくて、今も仕事中だというのに修一の前で鍵つきチェーンを自慢げに披露したのだ。
嬉しそうに鍵を披露する姿が、鍵っ子の小学生みたいではなくて、小学生そのものに見えていることに夏樹だけが気づいていない。
今も小山が離れた席から夏樹の様子を微笑ましそうに眺めている。
最初のコメントを投稿しよう!