970人が本棚に入れています
本棚に追加
「――それで? 今日は一人で帰るのか?」
「うん。そうだけど……なんで?」
「盗聴器なんて気持ち悪いだろ。何だったら一緒に帰るか?」
「あ……うん」
修一の提案に夏樹が言葉を濁す。
「どうした? 何か予定でもあるのか?」
「予定というか……」
実は昨日のうちに、これからは帰宅する時は久志が自宅まで送り届ける、了承しないなら久志の部屋から通勤するようにと約束させられたのだ。
久志の部屋に住むなんてとんでもない。
夏樹は迷わず前者を選んだ。
夏樹の選択に、恋人なんだから今さら遠慮などしなくてもいいと久志からは何度も後者の案を勧められたが丁重にお断りした。
残念そうな顔を見せる久志のことを見ているうちに、本当は久志の所に行く案にもちょっと心を動かされたが、それは夏樹だけの秘密だ。
「松本くんに何かあったの?」
それからも仕事そっちのけでこそこそと喋る二人の背後から誰かが声をかけた。
仕事をさぼってお喋りに夢中になってしまっていた夏樹と修一が、びくりと肩を揺らして慌てて振り返ると、そこにはマグカップを手にした山下が立っていた。
「コーヒーを注ぎに行ったら、ちょっと聞こえたものだから……ごめんね、立ち聞きするつもりはなかったんだけど」
「ああ、えっと……」
物騒な内容だけに、夏樹を差し置いて勝手に喋っていいものか、修一が伺うように夏樹の顔を見る。
夏樹はそれに無言で頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!