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「――なるほど。それで盗聴器だなんて言ってたんだ」
修一の説明に山下が頷いた。
「そう。だから仕事が終わったら、一緒に帰ろうかって言ってたんだよ」
「それなら僕も付き合うよ。確か帰る方向も松本くんと一緒だったはずだし」
「あれ? 山下、夏樹と方向一緒だったっけ?」
「引っ越したんだ。前に住んでた所だと乗り換えがちょっと不便だったから」
「――なるほど。夏樹、どう? 今日からでも一緒に帰るか?」
修一と山下の二人で勝手に話が進められ、二人の間では夏樹と一緒に帰るのはほぼ決定事項になっているようだ。
「え……っと。それなんだけど、大丈夫だから」
「何言ってんだよ。お前の大丈夫ほど当てにならないものはないぞ。なあ、山下もそう思うだろ?」
「あー……そうだね」
夏樹に遠慮してか山下は言葉を濁したが、高校からの腐れ縁である修一は容赦がない。
「それが、もう一緒に帰る人が……いる、から」
「――あ。もしかして例の彼氏か?」
「だから、彼氏じゃないって。何度言ったら分かるかなあ」
「でも、そうなんだろ?」
「…………」
修一の意味深な視線に夏樹は言葉を詰まらせた。
付き合いの長い親友は、嫌だ違うと言いながらも最近、夏樹が久志とのやり取りをちょっと楽しみにしていることに何となく気づいているのだ。
「まあいいや。山下どうする? 夏樹は彼氏とデートみたいだけど。俺たちで今日、飲みに行かね?」
「だから違……っ」
反論しようとする夏樹を修一は強引に追いやり山下を飲みに誘った。
「今日はやめておくよ。引っ越しの荷物がまだ片付いてないんだ」
「そっか……それならしょうがないな」
山下の答えに修一は残念そうな顔をした。
不審者被害に遭った親友のことが心配で一緒に帰るというよりも、単に飲みに行きたかっただけのようだ。
「じゃあ、僕はこれから外回りなので」
「おう、いってらっしゃい」
山下がホワイトボードに行き先を記入する。
「あ、タヌキじじいの所は山下の担当になったんだ。よかったな夏樹」
「――うん」
夏樹がかつて担当していた私立桜が丘学院。そこの教頭である青嶋から強引にホテルに連れ込まれそうになった日――夏樹が久志と出会った日――の翌週、夏樹が出社すると担当が夏樹から山下に変更されていた。
もちろん久志の仕業だ。
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