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夏樹が運転席に座る芹澤をちらりと見た。
今夜久志はどうしても外せない用があるとのことで、芹澤が夏樹の送迎をしてくれているのだ。
久志と行動を共にしている芹澤自身も忙しいのに、わざわざ付き合ってくれている。
なんだか申し訳なくて、夏樹は車の助手席で小柄な体をますます小さくして俯いた。
「松本くん、今日は申し訳なかったですね」
「えっ?」
夏樹に芹澤から謝られるようなことなどない。
「いえ、本当は専務――久志さんがお送りするはずだったんですが、急に予定が入ってしまったんですよ」
「そんな、謝らないでください。俺のせいで芹澤さんにまでご迷惑をかけてしまっているのに」
隣で小さくなっている夏樹の様子を見た芹澤がくすりと笑った。
「――?」
「すみません。いえね、松本くんがご迷惑だなんて言うものだから可笑しくなってしまいました」
「もう……芹澤さんまで俺のこと子供扱いしないでください」
「はいはい、わかりました」
「芹澤さん!」
笑いの引かない芹澤を夏樹が戒める。
芹澤にからかわれたことから、申し訳なさからくる夏樹の緊張も解けた。
しばらくすると夏樹の自宅近くのコンビニが見えてきた。
「そこのコンビニに寄ってもらってもいいですか?」
「いいですよ」
「すみません、勝手言って」
夏樹はコンビニで夕食の弁当と、明日の朝食用に食パンそれにコーヒーゼリーを買った。
「松本くん?」
「――え? あ、山下」
突然名前を呼ばれた夏樹が声のする方へ顔を向けると、そこにスーツ姿の山下がいた。
どうやら仕事帰りのようだ。
「買い物?」
「あ、うん。そう……だけど」
「僕の引っ越し先、すぐ近くなんだ」
山下が親しげににっこりと笑う。
そういえば山下は夏樹と同じ方面に引っ越したと言っていた。だが、まさかご近所だったとは。
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