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「お待たせしましたっ」
芹澤が待つ車へと小走りでやって来た夏樹が慌てて車に乗り込む。
「――? どうしたんですか、そんなに慌てて」
「えっ!? そっ……えっと、あ、芹澤さん」
「はい」
「芹澤さん……そう、このあとまた紺野さんを迎えに行くって言ってたから、急いだ方がいいかと思って」
本当は一刻でも早く、山下の目の届く場所から逃れたかったから急いで車へと戻った。別に山下が夏樹に何かをしたということではないのだが「何となく」嫌な感じがしたのだ。
夏樹のただの勘を芹澤にどう説明すればいいのかも分からないし、夏樹はとっさに思い付いたことを言った。
「まあ確かにこの後、久志さんを迎えに行くので急いでもらえると助かりますけど」
ただ急いできたというには様子のおかしい夏樹に、芹澤が首を傾げる。
それ以上夏樹が何も言わないため、芹澤もそれじゃあ行きましょうかと車を発進させた。
「ありがとうございました」
「いえ、それじゃあ気をつけて。ちゃんと戸締まりしないといけませんよ」
「わかってます」
コンビニから五分ほどで車は夏樹の自宅へ到着した。
子供へ言い聞かせるような口調で芹澤は告げると、夏樹をマンション前で降ろしそのまま帰っていった。
「――疲れた」
玄関ドアの鍵を開けて部屋の中に入る。
靴を脱ごうと、夏樹がふと靴箱の上へ目をやるとそこに見慣れない封筒が置いてあった。
「何だこれ」
こんな所に封筒を置いた記憶はない。もしかして昨日、久志たちがやって来たときに忘れていったのだろうか。
封筒を手に取ってみると五ミリほどの厚みがあり、案外重い。
――だけど、今朝出るときにはなかった……よな
夏樹はいつも玄関の鍵を靴箱の上に置いている。今朝、そこに封筒はなかった。
またもや留守中に誰かが侵入したらしい事実に、夏樹は手に持つ封筒を落とした。
「――!」
封筒の口が開いていたらしく、中身が玄関にばらまかれる。
撮られた覚えの全くない自分の写真。足元に広がるそれらに夏樹は言葉を失い、その場にへたりこんだ。
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