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周りから人懐こいと言われるわりに恋愛ベタな自分に、これだから今まで恋人のひとりもできなかったんだと心の中で一人反省会をしているとインターホンが鳴った。
もうそこそこ遅い時間だ。こんな時間に一体誰が訪ねて来たのだろうか。
夏樹はまだ玄関に立ち尽くしたままだ。
誰ともわからない人物が玄関扉一枚むこうにいると思うと、気持ちが悪くて動けなくなってしまった。
「大丈夫。鍵もドアチェーンもちゃんとかかってる」
元気づけるように自分に言い聞かせ、気持ちを奮い立たせる。だが、それも再度鳴ったインターホンの音にあっさりと萎えてしまった。
とにかく誰かに連絡を――本心は久志に――と、携帯を手にするが、指が震えて操作ができない。
「だ、大丈夫……っ。落ち着け…落ち着け」
夏樹はカタカタと小刻みに震える手で携帯をぎゅっと握りしめた。目許がじわりと潤みだす。
今にも溢れそうになった目許を手の甲で拭い、もうダメだと挫けそうになったとき、ドアのむこうから声が聞こえた。
「夏樹? いるんだろう? 私だ」
「――っ」
ついさっきまで携帯で話していた相手、まだ耳に残っている声だ。
夏樹は夢中で玄関のドアを開け、そこに立っている人物に抱きついた。
「おっと――夏樹? どうした?」
「…………」
ドアが開くと同時に抱きついてきた夏樹を難なく受け止めた久志が、胸元に顔を埋めたままの夏樹へ優しく問いかける。
夏樹は久志の存在を確かめるかのように、背中に回した腕に力を入れると逞しい体にしがみついた。
顔も見せず抱きついたまま動かない小柄な体を、久志が長い腕で包み込む。
何かに怯えたように震える夏樹を落ち着かせるために、手のひらでぽんぽんと背中を叩いた。
「夏樹。ほら、もう大丈夫だから。君の可愛らしい顔を見せてくれないか?」
久志が横から覗き込もうとすると、夏樹はイヤですと小さく呟いて久志の胸元へ額をくっつけたまま首を横へ振った。
先程の携帯でのやり取りをしていた時、実は久志は夏樹のマンション前まで来ていたのだ。声だけ聞いてそのまま帰るつもりだったが、様子のおかしい夏樹のことが気になって部屋までやって来てしまったのだが正解だったようだ。
久志は玄関床に散らばったままの写真に目をやると、眉間に皺を寄せた。
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