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「松本くん、ほら、もっと飲んで」
「あ、はい。頂きます」
まだ半分以上残っている夏樹のグラスへ、青嶋が強引にビールを注ぐ。目上の相手に手ずから注いでもらうのを無下に断ることもできず、夏樹はグラスに口をつけると、ひと口飲んでテーブルに置いた。
夏樹は今、青嶋の誘いに乗ってしまったことを酷く後悔していた。
場所はちょっと高級感の漂う大人の雰囲気の店で、青嶋は店の女性そっちのけで夏樹の隣にベッタリとくっついている。
もともとアルコールには強い方だが、隣にくっついたまま離れてくれないタヌキのせいで夏樹の気分は最悪だった。
「松本くんは、いくつになるのかな?」
「……二十四です」
「そうか二十四か。ちょうどいい年頃だねえ」
いったい何がどうちょうどいいというのか、青嶋はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら夏樹の太腿に手を乗せた。
「――ひっ」
ねっとりと撫で擦る青嶋の手のひらの体温が気持ち悪い。夏樹は頬を引き攣らせ息を飲んだ。
「松本くん。この後、どうかね」
青嶋が夏樹の耳許に顔を近づけて囁きかける。
耳に吹きかけられる酒臭い息に、夏樹は吐き気と悪寒を覚えたが、取引先の手前ぐっと堪えた。
「――二次会ですか?」
「何を言ってるんだい、私と朝まで付き合わないかと聞いてるんだよ。君も子供じゃないんだから、私の言っている意味、わかるだろう?」
「あの……俺、見た目こんなですが、一応男ですよ?」
「今さらじゃないか。分かっているんだよ、松本くん。君は私と同類なんだろう?」
そう言って青嶋の生ぬるい手のひらが夏樹の小さな手を捕まえた。
「あのっ、やめて下さい。同類とか、意味が分からないです」
夏樹は掴まれた手を慌てて取り戻すと、ソファの上で青嶋から距離をとった。
男性に対して魅力を感じるという部分では青嶋と嗜好が同じかもしれないが、夏樹にだって選ぶ権利がある。
慎重に選びすぎて、まだ清いままではあるのだが。
他人からそういった意味で触れられることに慣れていない夏樹の様子を、青嶋が愉しそうに眺めている。
「――申し訳ありません……じっ、実はこの後予定があって……お先に失礼させて頂きますっ」
青嶋からの舐めるような視線に耐えられなくなった夏樹は、苦し紛れの理由をつけて席を立った。
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