7人が本棚に入れています
本棚に追加
疑り深い目で見てくるのだけれど、酔っているせいか眼力がなくて可愛らしいので、ついからかうように笑ってしまった。
「ふふっ、さてどうかなぁ。こう見えて僕、結構モテるんだよ?」
「よく言うわねぇ。積極性のない草食系男子はもてない運命なのよ」
「今の僕には君がいるじゃあないか」
「世の中の常識を裏切る展開よねぇ。我ながら、本当にそう思うわ。私をフったら、多分一生後悔するわよ?」
「言ってくれるね。そんな裏切りも美しい。どんな形であろうとね。例えばほら、こんな風に」
僕は一欠片の勇気を振り絞って、振り絞って、振り絞って。
「ーーさん。僕はこういうのがはっきりいって苦手だしもの凄く緊張するし、二度は言いません。YesかNoだけで答えてください。僕と結婚してください」
見栄を張ったダイヤの指輪が据え付けられた赤い箱を開けて、頭を思いっきり下げた。
こういう時に真っ正面から相手を見れないのが我ながら女々しい。彼女に告白した時もそうだった。ああ、僕は成長してないんだなぁ
彼女がYesかNoか、どちらの答えを返すのか。それは分からない。分からないけれど、ただ一つ確信していることはある。
「ああ、なるほど。これは確かに……予想を裏切られた気分」
やっぱり、YesともNoとも返さなかった。
でも、二言目は要らない。彼女の癖は分かっている。返事はこれからくる。
「ーー私でよければ、喜んで」
下げた頭を上げた時、彼女が浮かべていた泣きそうなほどの満面の笑みを、僕は一生忘れることはないだろう。
X'day。
それはもはや起こることが確定しているが、いつ起こるか予想不能な出来事。
けれど寄り添う二人が将来を誓うには、この聖夜だけは例外なのかもしれない。
ーークリスマスにはXが潜んでいる。
END
最初のコメントを投稿しよう!