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「じゃあ何の問題があるっていうのよ」
十二月に入る頃には飾られていたLED照明たち。
それが今日この日のためであることを自覚しているかのように、より一層綺麗に光輝く。
赤緑黄色青紫ピンク。チカチカチカチカと決められたプログラム通りに点滅しては、様々な形へと変形していく。
その中で振り返る彼女の笑みは、きっとこの聖夜であるからこそ見られる一面なのだろう。
だから彼女がクリスマスをなんと呼ぼうが、この日を満喫できればそれでいい。
ただなんというか、これはちっぽけな僕のくだらない意地なのだ。
情けない僕の最後の踏ん張りなのだ。
「そもそもX'dayってもう意味があるじゃないか」
「そうね。クリスマスっていう意味が」
ズバリ言い切る。僕はあっさり否定する。
「違うよ。X'dayっていうのは起こることは確定的ではあるけど、いつ起こるか予測できない重大事件が起きる日を指す俗称だよ」
「……馬鹿の私にもわかりやすく」
「東海大震災は何年も前からくるくる言われてるだろ?でも、まだ来てない。けれどいつかは必ず来る。これはX'dayといえるね」
「ふーん。なんかしっくりこない」
「それは多分少数派だよ」
僕はつい苦笑してしまう。彼女のことはもう随分と知ったつもりだ。
色んな癖も性格も。好物も好みも趣味も友人関係も。
けれど時折顔を覗かせる彼女の不思議な言葉の使い方に、その一風変わった思考回路に、僕はいつも戸惑ってしまう。
相手を理解したいという僕の想いに、それは反しているからだ。
「そんなこというけどさぁ。わりとチラシにだってX'dayって書いてあるよ?」
「チラシを書いている人も少数派なんだよ」
「絶対そんなことないって!」
彼女は口を尖らせて反論した。それから急にまた笑顔になって、
「ま、そんな話はあとあと。急がないとレストランの予約時間に遅れちゃうよ」
そう言って先をとてとてと歩いていくので、僕もその後をゆっくり追いかける。
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