波旬の娘

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「見なよ」 全く黙殺した錫杖の男が、紅葉の背後に視線を促す。古木に縛られていた少女が、いつの間にか顔を上げていた。 彼女の左頬に曼珠沙華の花が見える。見事な彫物は、よく見ると首筋にまで続いていた。背中には曼珠沙華が多数の花弁を開いているのかもしれない。 ゆっくりと縄が、少女の足元に落ちた。 「お前、村の娘ではないな?おのれ、あ奴ら」 村人の謀りに気づいた紅葉の美しい顔が、怒りと共に恐ろしくも変貌していくのが判る。 濡れた瞳は紅く染まり、上品だった唇は大きく裂けて、中からは鋭い牙が覗いていた。 さらに額の左右からは、先の尖ったものが突き出ている。 紅葉は鬼女の本性を現していた。 伸びた鋭い刃物のような爪を少女へと振りかざす。 彫物の少女は身軽に一歩退いて攻撃をかわした。 そのまま、鬼女の背後に廻ろうとして位置が反転する。
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