冷たい雨

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「北川さん?ごめん、急でびっくりさせちゃったよね。 その…返事は…いそがないし、友達からとかで良いから… 考えてみて欲しいんだけど…」  黙り込んでしまった翠に、慌てたように目の前の先輩が言葉を紡いだけれど、考えるもなにもなく…無理だった。絶対に無理。誰かと付き合うなんて全く考えられない。だけどそれを伝えることもまた、息が出来なくなりそうなほどに緊張する。言葉を探す翠の耳に、ドアの開く音が届いた。  それは翠にとっては救いの音。  電流が走ったように、翠は目の前の先輩にペコッと頭を下げた。 「あ、あの…ごめんなさいっっ」  なんとかその一言だけひねり出して、翠は逃げるように非常口に駆け出した。途中、非常口から丁度出てきた新島に肩をぶつけたけれど、それすら気にせず非常口のドアを押さえてくれた新島の腕の下を潜り抜けて校舎に駆け込んで、ダッシュ逃げ込んだ物理実験準備室の内鍵をかけた。  はぁはぁと肩で息をしながら、ドアの近くにへたり込む。自分でもどうしてこんなに駄目なのか不思議に思う。もう一人なのに。新島しかこない物理実験準備室に居るから大丈夫だと思うのに、それでもまだ立とうとすると足がガクガクと震えて、立ち上がる事すら出来なかった。  そのまま、壁際にある実験台に寄りかかって膝を抱えていると、ドアノブを回す音が響いて翠はビクッと身体をすくませた。次いでチャリッと微かに聞こえた鍵の音が新島が戻ってきたのを教えてくれて、安心してまた抱えた膝に顔を埋めた。
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