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先生の家は、駅から離れたところにある綺麗なマンションだった。
「お邪魔…します」
おずおずと部屋に上がる私を先生がクスクス笑う。
「大丈夫だよ、とって食ったりしないから」
その辺座ってなと言われてぺたんとラグの上に座る。先生の部屋は、漠然と想像していた男の人の部屋より綺麗だった。もちろん、男の人と付き合ったことなんてほとんどない私には比較対象なんてないけれど。部屋に入ったときに見た感じ、キッチンも広い。ベッドもクローゼットもこの部屋には無いから、寝室は隣の部屋。
ここが先生の家、なんだよね……? 連れて来られたものの、私は自分がいる場所にまだ現実味が無かった。場所だけじゃない、今の私と先生の関係すら、まだ夢なのかと思ってしまっていた。カタンと小さな音がしてローテーブルを見ると、先生がグラスを二つ置いたところだった。そして、私のすぐ後ろのソファに先生は座る。
「翠、おいで」
おいで。教師と生徒だった七年前には一度も言われたことがなかったその言葉に、先生を見つめたまま静止してしまう。さっさと帰れとか、もう来るなとかはたくさん言われたけど、おいでって今まで一度も言われたことない。
そこまで考えて、そうだよね。と思い直した。昔は教師と生徒だったから、こっちにおいでとか先生が言うわけない。先生の言葉の変化は、私と先生の関係の変化に直結してるわけで、「おいで」と優しく言われるのは、間違いなく私が先生の『生徒』じゃなくなって、『彼女』になったから。考えなきゃいい事を考えてしまって、改めて気付かされた私と先生の今の関係に一気に頬が火照った。
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