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「ごめん……なさい」
バクバクと心臓の音が耳の奥で聞こえる。自分でもどうしてか判らないけれど、凄く怖かった。手を振り払ってしまったのは私のはずなのに、どうして自分がそんなことをしてしまったのかも、あんなに怖いと思ったのかも全く理解できなかった。先生は、私から手を離して言った。
「大丈夫、何もしない。翠、お前が大丈夫になるまで、何もしないよ」
優しい言葉のはずなのに、先生の声が凄く遠くに聞こえた。つい今しがたまで抱きしめてもらっていて、耳元で優しく響いていたのに。先生がどこかに行ってしまいそうで怖くて、先生の腕に縋り付いた。
「せんせ、やだ」
どこにも行かないで、と先生の袖を握り締める。そんな私の頭を、先生がそっと撫でてくれる。
「翠、お前……」
先生は言いにくそうに言葉を切ってため息をついて、腕を掴んで離さない私を軽く抱き寄せた。
「平気か?」
頷くと、もっと強くぎゅうっと苦しいほどに強く抱きしめられた。何となく、さっき先生が言いかけた事が何なのか判った気がした。
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