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先生は私に何があったか知ってる。どこまで何をされたかは、話していないけど、きっと知ってる。私と同じくらい、先生だってあの事を気にしてる。ため息のような先生の吐息と共に、抱きしめてくれている腕の力が少し緩む。
「忘れさせてやれるもんなら忘れさせてやりたい。全部俺の記憶で塗りつぶしてやりたい。翠、ちゃんと好きだから」
先生が、6年前とあまりに違いすぎて、頭がパンクしそう。この人はほんとに私が知ってる先生?? 実は中身別の人だったりしない?? そんなことあるワケないんだけど、そんなことを思ってしまう。
昔からここぞというときは優しかったけど、基本的にはドライな感じと言うか、恋愛とかそこまで興味ないみたいな感じだったのに。だから、今みたいなことを言われるなんて、考えもしてなかった。当たり前のように私の事を名前で呼ぶし、抱きしめてくれるし、キスだって…… 好きってこんなに、ストレートに言ってくれるような人だったの?そんな気配、全然なかったのに。
なによりも、私が知っている“彼氏”という存在と、先生は…全く違った。
道又先輩は、もっと高圧的だった。逆らっちゃいけない、そんな雰囲気があった。私はその支配すら先輩のモノになったように錯覚したけど、今ならちゃんとわかる。あれは、私の意思も自由も何もかも、奪うものだった。
先輩は、私のことを好きでもなんでもなかったんだ。
7年も経った今になってそんなことを思った。
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