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ドライヤーの音が止んで、視線を落とすと濡れていた髪は殆ど乾いていた。
「先生」
「ん?」
聞き返してくれた先生に、さっき言った事をもう一度聞くことはできなくて、視線を逸らしてしまった。そのかわり、先生の胸に頭を預ける。
「髪、こんなもんでいいか?」
「うん、ありがと」
背中から先生の腕が回ってきて、ぎゅっと抱きしめられる。
「どうした?」
「……」
「なんか、言いたそうだったけど」
話したいことはあるのだけど、その話をどう切り出したらいいのかもわからないし、面と向かって話した後、どうなるのかわからなくて怖かった。
肩を抱いてくれてた先生の手は、ゆっくり私の首元を撫でて、指先でツーッとルームウェアの襟元を伝う。たったそれだけなのに、ピクッと身体が震えた。
先生の手がもっとあちこち触れるのを思うと、身体の芯がきゅうっとなる。先生は先輩とは違う。首筋をそっとなぞる指先に、心臓が不安とは違う音色で跳ねる。
だけど、同時に身体とは全く別の事を思う心が一気にブレーキをかけてくる。大丈夫と言って出来なかったら、先生に嫌われちゃう? 先輩みたいに、もう要らないって…先生にも言われちゃう? 考えただけでも冷え切っていく心はそのまま心臓も凍らせていく。
もっとくっついてたい。もっともっと触って欲しい。でも、怖い。怖くて怖くて堪らない。
相反する気持ちが同居していて、バラバラになりそうな心をたった一つの気持ちが繋ぎとめていた。
先生、お願い。私のこと嫌いにならないで。
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