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私を背後から抱き締めている先生の唇が、私の首筋に触れて思わず肩を竦めると先生の手が私の頭をそっと撫でる。そのまま私の手の上に重ねられた先生の手の甲には、いくつものひっかき傷が残っていた。
「ごめんなさい」
先生の手に頬を寄せて言うと、「ん?」と声が返ってくる。
「手、痛かったでしょ?」
昨夜、私がずっと手を握りしめていたのを見かねたのか、先生は手が空く限り私と手を繋いでいてくれた。だから、先生の手には私の爪の跡が残っていた。
「平気。背中の方が凄そう」
クスリと笑って先生が答えたその意味が判るや否や、頬が一気に熱くなる。確かに先生の背中にも、散々爪を立てた。「ごめんなさい」と消え入りそうな声で謝る私を先生はクスクスと笑う。
「翠、昨夜、寝る直前くらいに言ったこと覚えてるか?」
寝る直前、と言われると思い当たるのは一つだけ。だけど、色々な事が一度にあったからか、もう本当に先生に言われたのか、夢なのか自信が無くなっていた。
「忘れたか?」
「……た、ぶん、覚えてるんだけど、聞き間違いだったら凄く恥ずかし……くて」
私の返事に、私の耳元で先生が喉を鳴らして笑う。
「もう一回、言って欲しい?」
余裕たっぷりの声音に、表情は見えないけれどきっと面白そうな表情をしているんだろうと察しが付く。そう思うと素直に言って欲しいと言うのが悔しくて黙っていると、耳元でクスリと笑う気配。
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