アイノコトバ

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「翠、俺のとこに嫁においで」  耳に確かに届いた先生の声に、あぁ……夢じゃなかったんだときゅうっと胸が苦しくなる。  本当は、夢だったんじゃないかって思っていたから。  昨夜はぼんやりした意識の中で聞いたから、全然実感がなかった。先生が凄く普通の事みたいに言うから。明日は映画を見に行こうかって言われたみたいに……思ったから。  昨夜は凄く嬉しくて、何も考えずに頷いてしまったけれど、改めてもう一度言われるとと、色々心配になってくる。 「返事は?」 「あの、私、家であんまり家事とかやってなくて……」 「別にそんな難しくないだろ。お互い仕事してんだし一人で全部やれなんて言わないよ」 「料理だって、先生のほうが上手だし」 「まぁ、そこは頑張れ」 「私、多分、本当に何にも出来ないんだけど……」  家事は本気で何一つ自信がなくて、どんどん声が尻すぼみになっていってしまう私を、先生は呆れたように笑う。 「別に家政婦が欲しいわけじゃないぞ。翠、一緒に暮らそう。俺のとこに毎日帰っておいで」  毎日先生の所に帰る。それは、とても魅力的な響き。 「俺と、ずっと一緒に居るの嫌か?」 「……一緒に、居たい」 「だったら、おいで」  もう何も言えなかった。おいでと先生が広げてくれた腕の中に飛び込んだ私を、先生がしっかりと受け止めてくれる。見上げると間近にあった先生の額とこつんと額がぶつかって、大きな手で両の頬を包み込まれた。 「お前、すぐ泣くな」 「……だって」  だって、嬉しくても泣きたくなる。そう告げると、先生は私の髪をくしゃくしゃと撫でてそのまま唇を塞ぐ。啄むように重ねる唇はとても心地よくて、何もかもが「好き」の中に溶けていく気がした。
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