落ちてくる空

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ーーー  翠は人気の無い物理実験準備室の実験台の上に鞄を置いて、さらにその鞄の上に顎を置いて不機嫌にドアを見つめていた。  せんせ、早く帰ってこないかなぁ。  最初のうちは新島がいないときは入らないようにしていたし、どうしても会いたい時は部屋の前で待っているようにしていたけれど、最近はいないときはこうして準備室の中で待っているようになった。特に文句も言われないからきっと大丈夫なのだろう。  鞄の中からブーブーっと携帯の音がして翠は余計に憂鬱になった。携帯をみると、メールの差出人はやはり渡辺 大輔。 『部活終わったら一緒に帰ろう?』  そんなメールにゾクッと寒気がした。昨日、駅まで一緒に帰ったけれど大輔は手を繋ごうともしなかったし、翠に触れようともしなかった。そんな事をされていたら、悲鳴をあげて突き飛ばしていたと思うから、そんな事がなかった事に安心もしていた。  だからと言って、それを連日続けられるかと言うかと言うと、否。顎を鞄に乗せたまま見つめ続けていた曇りガラスのドアに人影が映って、翠はパッと顔を上げた。
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