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「いったーい」
「自意識過剰」
「だって、わざわざ友達からって言うんだよ!」
「なってやれよ、友達くらい」
呆れた表情で言うけれど、それでも翠にあまりキツく言わないのは、新島が昨年2月の出来事を知っているからだ。
「だって…」
「告られたらそんとき考えろ。今から無視してちゃ不憫だろうが」
「むぅ~」
翠はふくれて鞄の上に顎を置いて、またぶーたれた。そんな翠の顎の下の鞄の中でまたブーブーっと携帯がなった。
『部活終わったから、昇降口で待ってる』
メールを見て翠はため息をついた。
「帰りまぁす」
翠は渋々重い腰を上げた。ため息をついて、鞄をずるずると机の上で引きずって準備室の出口に向かう。
「北川」
新島に呼ばれて振り返った翠の顔は、相変わらず不機嫌を絵に描いたような顔だった。
「どうしても駄目だったら無理しないで戻って来い」
その言葉に、翠はようやく小さく笑った。
「うん、せんせありがと」
新島の眼鏡の奥の瞳が優しかった。それに後押しされて翠は少し安心してドアを閉じた。
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