落ちてくる空

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 もしも、毎日一緒に帰るのが大輔じゃなく新島だったら、こんな悶々とした気持ちにならないのに。車で送ってくれるし、ちょっと遅くまで待っていないといけないけれど、それも特に辛いと感じない。  そんなことを考えながら新島を横目で見ると、今日はレポートを見ているのか、机に積み上げられたレポート用紙の束を見ながら時々何か書き込んでいる。  眼鏡の奥の伏目がちな瞳は、少し切れ長で鋭い。愛想が良いわけじゃない。黙ってるとちょっと怖そうに見えるけど、その目が時々優しく笑ってくれるのを翠は知ってる。  会話は無いけれど居心地のいい時間を、翠の携帯が鞄の中で震える音が断ち切った。腕時計で時間を確認した新島は、翠を見ずに告げる。 「ほれ、さっさと帰れ」  そんな意地悪言わないでよ。折角先生の良いとこ考えてたのに、と翠は頬を膨らませて新島を睨んだけれど、相変わらず新島は顔を上げなかった。
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