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「悪いヤツじゃないんだろ? とりあえず、これやるからその時化た顔なんとかしろ」
俯いて答えない翠の頬に、ぴとっと紙パックのジュースが押し当てられた。
「冷たい! なんで?」
思わず顔を上げた翠を喉を鳴らして新島が笑う。なんだか上手く操られている気がしなくもないが、そんな事は別に構わない。
この部屋に普段置かれている飲み物はキャビネットに常温保存だ。だから買ってきたばかりじゃなければ、冷たくないはずなのに。今日は、新島は翠が来てから一度もこの部屋から出て行っていない。こんなに冷たい飲み物があるはずがない。
翠は実験台の上に四つんばいになって体を乗り出して新島の肩越しに壁際の実験台の下をみて、思わずテンションが上がってしまった。
「あー!! あれ!! 先生、なんで持ってるの?!」
「実家で埃かぶってたから連れてきた」
新島の斜め後ろに位置する実験台の下に、ごろんとした猫をかたどった見慣れないものが鎮座していた。翠の記憶が正しければ、あれは何年か前に紙パックジュースに貼ってあるポイントシールをためて応募するタイプの抽選で当たる景品だった猫型冷温庫だ。
もっちりしたフォルムに、ゆる~くにんまり笑う猫が可愛いかったけれど、当時小学生だった翠にはポイントをためることすら無理だった。
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