落ちてくる空

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「北川、付き合ってるなら来るなって言ってるだろ」 「なんで」  眼鏡の奥の鋭い瞳で不満げな翠を見て、新島は小さくため息をついた。 「好きな女が毎日他の男と2人っきりで居るのを喜ぶ男は居ない」  不満に口を尖らせた翠にも新島の言葉が筋が通っているのがわかる。 「だって付き合いたいわけじゃないもん…。 言えなかっただけだもん…」 「だったら今すぐやっぱり付き合えませんって言ってきな」  それも無理、と翠は不満たっぷりの眼差しで新島を見た。仕事の手を休めない新島を見ながら翠は猫型冷温庫を開けたけれど、中にはコーヒーが数本入っているだけで、翠好みの甘いカフェオレもミルクティーも入っていなかったからすぐに閉じた。 「なんか買ってくる」 「俺にも」  翠は小銭入れを渡されてきょとんとして新島を見た。 「コーヒーは入ってたよ?」 「温かいの」 『ブラック微糖』  二人の声がハモって、ニッと新島は口元に笑みを浮かべた。 「よろしく」 「はぁい」  翠はペットボトルのお茶と温かい缶コーヒーを買って、物理実験準備室にぷらぷらと戻る。本来であれば部活に行っているはずの時間に制服で自販機で飲み物を買っている、その様子を大輔に見られたのを翠は全く気付いていなかった。
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