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「で、何してんの?」
「これ、真柳さんに渡してって言われて……。真柳さんってどこにいらっしゃるのかなって……」
「あー、ヤナギさんね」
菊池君は視線をフロアの左側に向けて、すぐに私の方に向き直る。
「今電話中だから渡しとくよ。お前からって言ったらいいの?」
「あ、えと、営業2課の松本さんからって伝えて欲しい……」
すっと私の手から封筒を奪った菊池君は、「それでさ」と一歩距離を詰めてきた。まるで、仕事とプライベートを分けるように。油断していたのもあって一瞬遅れて後ろに下がろうとしたら、腕を掴まれた。
「なんでライン返してくれないワケ?」
「それは……」
先週の水曜日に届いたラインメッセージに、私は結局返事をしていなかった。角が立たないように断りたいのに、言葉が浮かんでこなくてそのままになってしまっていた。
「前のは、俺も悪かったって。だから、飯位……」
「ごめん、無理っ」
出た声が思っていたよりも大きく響いてしまって、思わず下を向いてしまう。
「ごめんなさい。ご飯とか、私……」
「北川、でかい声出るんじゃん。良いよ別に。野村とかも誘ってみるから。じゃ、またな」
掴んでいた私の腕をあっさりと解放して、菊池君が踵を返す。掴まれていた左腕が脈打っているような気がするほどに、緊張していた。
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