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その光景は、破滅と呼ぶにはあまりに静かなものだった。真っ黒な人の形をした何かが音も無く次々と村を飲み込んで、家も畑も人々も、瞬く間に同じ色へと塗りつぶして行く。
彼ら黒い者たち、『レムレース』に触れてはいけない。
身体も心も全部影に喰われて、死ぬまでただ時空嵐(じくうあらし)を彷徨うだけの亡霊になってしまうから。
佐参(さざん)は、眼下に広がった絶望的な光景にしばし呆然と見入っていた。しんしんと降り積もる冷たい雪の向こう、村の反対側には禍々しく渦巻く黒い時空嵐がばっくりと口を開け、ボトボトと涎(よだれ)の如く黒いものが流れ落ちている。あれが全部、レムレースなのだ。ひとつ現れただけでも大騒ぎになるというのに、今、この瞬間いったいどれほどのレムレースがあそこからこぼれ落ちているのだろう。
時空嵐の真下にあるはずの針葉樹林はもう、跡形もなく姿を消していた。レムレースに触れて消えてしまうのは何も人だけではなく、そもそも正確には、具体的な物体が消えるわけではない。消失するのは、そこに存在する時間と空間そのもの。話には聞いていたものの、佐参も実際に目にしたのは初めての事である。
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