~第一話~ 行く先は、一重の幕の子守唄

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 田嶋は書類を片付けてから、帰途につく。  京橋界隈は、八丁堀の竹富町にある田嶋主計の自宅。 「今帰りました、姉上」 「お帰りなさいませ」  田嶋が帰宅を告げると、暗がりから現れた田嶋の姉である里尾(さとお)。  だが彼女の顔は何かの墨を塗りたくったらしく、真っ黒。 「何をしてるのですか、姉上?」  かなりドン引きしてる田嶋に一言。 「美白で御座います。烏賊の墨は肌の白さを際だたせると聞きましたので」  妙に悦に入る姉に対して、黙るしか無かった田嶋だった。     三  その夜四ツ頃、深川某所。  町屋の並ぶ一角に芸事指南の看板を吊した二階屋が在った。  多少灯りは灯っているものの、辺りは人の姿も少なく淋しい限りである。  その家屋の二階に、男が二人と女が一人車座に座っていた。  ロウソクの灯りが辺りを照らすものの、口元くらいまでしか判別できない。 「遠州屋の元締め、申し訳ありません」  頭を下げる女。 「死末しますか?」  遠州屋の元締めと呼ばれた男とは別の男が指示を仰ぐ。  遠州屋と呼ばれた男は手でもう一人を制し、一言で済ませた。 「一度、逢ってみよう。手筈をつけよ」
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