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田嶋は書類を片付けてから、帰途につく。
京橋界隈は、八丁堀の竹富町にある田嶋主計の自宅。
「今帰りました、姉上」
「お帰りなさいませ」
田嶋が帰宅を告げると、暗がりから現れた田嶋の姉である里尾。
だが彼女の顔は何かの墨を塗りたくったらしく、真っ黒。
「何をしてるのですか、姉上?」
かなりドン引きしてる田嶋に一言。
「美白で御座います。烏賊の墨は肌の白さを際だたせると聞きましたので」
妙に悦に入る姉に対して、黙るしか無かった田嶋だった。
三
その夜四ツ頃、深川某所。
町屋の並ぶ一角に芸事指南の看板を吊した二階屋が在った。
多少灯りは灯っているものの、辺りは人の姿も少なく淋しい限りである。
その家屋の二階に、男が二人と女が一人車座に座っていた。
ロウソクの灯りが辺りを照らすものの、口元くらいまでしか判別できない。
「遠州屋の元締め、申し訳ありません」
頭を下げる女。
「死末しますか?」
遠州屋の元締めと呼ばれた男とは別の男が指示を仰ぐ。
遠州屋と呼ばれた男は手でもう一人を制し、一言で済ませた。
「一度、逢ってみよう。手筈をつけよ」
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