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その一言で、その場は解散となった。
四
翌日、田嶋は上司の与力である松河の指示を受けて高積み見廻りをしていた。
巣鴨の辺りを見廻ると、高さ制限を越えた荷車が田嶋の前を通り過ぎる。
「今の大八、止まれィ!!」
勿論大声で呼び止めたが、止まる気配が無い。
十手をかざして追いかけるも、日本橋辺りで見失ってしまった。
これは非常に拙いと、血相を変えて捜すも後の祭。
悲観に暮れて見廻りに戻るが、それも僅かの間。
「八丁堀の旦那。やたら積み荷の高い大八が、紀尾井坂の方へ向かいましたよ?」
何故築地ではなく紀尾井坂を出したのか。
そんな些細な違和感すら感じずに、田嶋は大八を再び追い掛け始める。
この声を掛けた女性が、この間に田嶋が見掛けた殺しの本人だとも気付かずに。
「くそう、見失ッたか……」
そう云うと、十手を後ろの帯の結び目に仕舞う。
「どうしたのかね?」
柔らかな物腰の声に辺りを見回せば、粋な小銀杏に紺の雪駄履き。
袴に大小に揃えた前差しの朱房十手とくれば、町奉行所の与力か火盗改メの同心だ。
「は。実は東両国で荷を積み過ぎた大八を見掛けまして、尾行けて来たンですが……。ついぞ、この辺りで見失ッてしまいまして……」
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