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「左様か。しかし、その様な荷車は見掛けなんだ。間違いは無いのか?」
「はい。ですが、見失ッた様なので追捕はなりますまい。では、失礼致します」
頭を下げると、田嶋は踵を返す。
「似てるな、あの男に……。そう、主税の様な……」
与力らしい男が呟いた事も知らず、足早に田嶋は北町への帰途を急いだ。
五
大八車の探索に時間を食い、時は既に逢魔が時の暮れ六ツ頃。
奉行所への戻りを急ぐ田嶋はふと、足を止める。
人気の途絶えた前方の四辻から肌が粟立つような殺気を感じたのだ。
何気なさを装い辻に差し掛かると、武士にとっての死角である左側から風切り音と共に刀が上段から縦一文字に打ち込まれる。
それを田嶋は紙一重で見切り、相手の攻撃をかわした。
「何しやがるンでェ!?」
伝法なべらんめえで怒鳴り返すと、居合独自の臨戦態勢と云われる余計な力を抜いた自然体に構える。
互いの呼吸を量りつつ、睨み合うこと小半刻。
暮れ六ツの鐘が鳴ると同時に双方が踏み込む。
二振りの刃が噛み合う音が辺りに木霊しあい、反響しあった。
二人共に、一歩も譲らぬ鍔迫り合い。
ふと、田嶋と刀を合わせていた侍が引く。
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