~第一話~ 行く先は、一重の幕の子守唄

7/15
前へ
/280ページ
次へ
「俺の初太刀をいとも容易く避けたのは、貴様が初めてだ……!? 次はこうはいかぬぞ」  そう云うと、捨て台詞を残して夜の静寂に消えて行った。 「お奉行ッ!!」  息を切らせて田嶋は奉行所内の奉行私邸に駆け込んだ。  溜まっていた仕事を片付けていた曲淵甲斐守は、驚いた様子で田嶋に対し振り返った。 「どうした? 田嶋」  泡食ったような田嶋を落ち着かせるように笑顔を見せる。 「お奉行、ここ数ヶ月……!! 辻斬りが跳梁しては居りませぬか?」  随分と切り口上で、切り出す田嶋。 「何故、そう思う?」  逆に聞き返す曲淵に先程の出来事を話して聞かせた。 「ふうむ、成る程な。今の所、そんな報告は入っていないが」  腕を組んで呟く曲淵。 「相手は侍か?」  心当たりが無い訳では、無い様だ。 「はい、高禄の旗本に見えました」 「心当たりは在るがマズいな。目付か大目付に訴えても、揉み消されるだろう。相手はその位の権力とカネが有る」  どうしたものかと思案していると、役宅脇の練り塀を飛び越えて投げ文が投げ込まれた。  『元締めより連絡ぎ有り。夜五ツ、いつもの場所にて差配』  投げ文には、要点だけが簡単に記されている。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加