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「俺の初太刀をいとも容易く避けたのは、貴様が初めてだ……!? 次はこうはいかぬぞ」
そう云うと、捨て台詞を残して夜の静寂に消えて行った。
「お奉行ッ!!」
息を切らせて田嶋は奉行所内の奉行私邸に駆け込んだ。
溜まっていた仕事を片付けていた曲淵甲斐守は、驚いた様子で田嶋に対し振り返った。
「どうした? 田嶋」
泡食ったような田嶋を落ち着かせるように笑顔を見せる。
「お奉行、ここ数ヶ月……!! 辻斬りが跳梁しては居りませぬか?」
随分と切り口上で、切り出す田嶋。
「何故、そう思う?」
逆に聞き返す曲淵に先程の出来事を話して聞かせた。
「ふうむ、成る程な。今の所、そんな報告は入っていないが」
腕を組んで呟く曲淵。
「相手は侍か?」
心当たりが無い訳では、無い様だ。
「はい、高禄の旗本に見えました」
「心当たりは在るがマズいな。目付か大目付に訴えても、揉み消されるだろう。相手はその位の権力とカネが有る」
どうしたものかと思案していると、役宅脇の練り塀を飛び越えて投げ文が投げ込まれた。
『元締めより連絡ぎ有り。夜五ツ、いつもの場所にて差配』
投げ文には、要点だけが簡単に記されている。
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