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金釘流の丸っこい女文字に目を通し火鉢にくべると、おもむろに立ち上がり着流しへ二刀を差し込んだ。
「どうする? 表の定法では裁けないぜ?」
「裏なら、裁けると?」
聞き返す田嶋に、意味深な笑みで答える曲淵だった。
六
目隠しをされた田嶋が連れて来られたのは、灯りの消された深川某所。
そう、あの芸事指南所だった。
曲淵が握っているであろう刀の下げ緒に従い敷居をまたぐ。
「遅かったな」
二階の階段踊場らしい箇所から、声が聞こえてきた。
「申し訳ありません、仰せの通りに彼を引き込むのに手間取りまして」
「まあいい、今夜から彼にも手伝って貰おう」
一人蚊帳の外だった田嶋は、訳が判らないながらも曲淵に続き二階に上がる。
二階に上がると行灯が赤々と灯っているが、田嶋には当然ながら見えない。
曲淵に倣って室内に入る。
「もう、目隠しを取っても構わぬぞ」
やや年かさらしい男に言われ、目隠しを取ると一組の男女が座っていた。
『!?』
田嶋が驚くのも無理はない。
昼過ぎに逢った壮年の与力にそっくりだったのだ。
その驚きの気配を察したか、男が口を開く。
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