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ここ数日腫れぼったい顔を、蒸しタオルやら冷水で洗うやら。
思いつく限りの手を尽くしたともは、洗面所の鏡を見てはぁーとため息を吐いた。
そして、ずっと前から決めていた事を今日実践してやろうと、ケータイを手に取った。
「とーもちゃん!いらっしゃい!!」
「キイちゃん!ごめんね、急にお願いして」
「ううん、今日予約空いてたから大丈夫だよ!それにしても、道に迷わなかった?迎えに行くって言ったのにー」
ちょっと膨れるキイ。
それにちょっと笑うと、奥から出てきた彼の母親にお辞儀をした。
「こんにちは。今日はお願いします」
「いらっしゃい、ともちゃん。待ってたわよ」
にっこりと笑ったその人は、やはり目の前で笑う彼そっくりだとともは少し笑みを深くした。
「さて、今日はどうしましょうか」
鏡の前に座り、ケープをかけられる。
そう、ともは今日、髪を切りに来たのだ。
「あの、」
言いかけて一瞬口をつぐみ、ちらりとキイを見るとも。
その視線に気がついたキイは、隣に立つと鏡越しに目を合わせ首を傾げた。
「思いっきり、バッサリいってください」
ともがきりっと視線を強め、後ろに立つキイの母親、美容師に行った。
「えっ!ともちゃん、バッサリって……どれくらい?」
キイが思わず、鏡越しから真横のともに視線を移す。
それをちらりと見たともは、手でソコを示した。
「肩に当たるくらい」
「えぇーっ!?そんなにー!?」
「輝一、うるさいわよ」
万歳して驚くキイを一蹴し、さらりと髪を撫でた。
「こんなに綺麗に伸ばしてるのに、いいのかしら?」
「はい、もう、バッサリいきたいんです。新生活に向けて……」
少し視線を下げたともに、何かを悟ったのか。
「わかったわ」
それなら、と美容師はハサミを手に持つと、その持ち手をともに向けた。
「折角だし、自分でいっちゃう?」
「えっ!?ちょ、母さん!?」
慌てるキイをしり目に、ともは最初驚きつつも。
にっこり笑って。
「はい!やります!!」
ハサミを受け取った。
小気味良く鳴った音は、彼女が次に一歩踏み出した合図。
最初の一刀を自らの手で振り下ろしたともは、すがすがしい顔をした。
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