シャキンと鳴らして

2/3
476人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
ここ数日腫れぼったい顔を、蒸しタオルやら冷水で洗うやら。 思いつく限りの手を尽くしたともは、洗面所の鏡を見てはぁーとため息を吐いた。 そして、ずっと前から決めていた事を今日実践してやろうと、ケータイを手に取った。 「とーもちゃん!いらっしゃい!!」 「キイちゃん!ごめんね、急にお願いして」 「ううん、今日予約空いてたから大丈夫だよ!それにしても、道に迷わなかった?迎えに行くって言ったのにー」 ちょっと膨れるキイ。 それにちょっと笑うと、奥から出てきた彼の母親にお辞儀をした。 「こんにちは。今日はお願いします」 「いらっしゃい、ともちゃん。待ってたわよ」 にっこりと笑ったその人は、やはり目の前で笑う彼そっくりだとともは少し笑みを深くした。 「さて、今日はどうしましょうか」 鏡の前に座り、ケープをかけられる。 そう、ともは今日、髪を切りに来たのだ。 「あの、」 言いかけて一瞬口をつぐみ、ちらりとキイを見るとも。 その視線に気がついたキイは、隣に立つと鏡越しに目を合わせ首を傾げた。 「思いっきり、バッサリいってください」 ともがきりっと視線を強め、後ろに立つキイの母親、美容師に行った。 「えっ!ともちゃん、バッサリって……どれくらい?」 キイが思わず、鏡越しから真横のともに視線を移す。 それをちらりと見たともは、手でソコを示した。 「肩に当たるくらい」 「えぇーっ!?そんなにー!?」 「輝一、うるさいわよ」 万歳して驚くキイを一蹴し、さらりと髪を撫でた。 「こんなに綺麗に伸ばしてるのに、いいのかしら?」 「はい、もう、バッサリいきたいんです。新生活に向けて……」 少し視線を下げたともに、何かを悟ったのか。 「わかったわ」 それなら、と美容師はハサミを手に持つと、その持ち手をともに向けた。 「折角だし、自分でいっちゃう?」 「えっ!?ちょ、母さん!?」 慌てるキイをしり目に、ともは最初驚きつつも。 にっこり笑って。 「はい!やります!!」 ハサミを受け取った。 小気味良く鳴った音は、彼女が次に一歩踏み出した合図。 最初の一刀を自らの手で振り下ろしたともは、すがすがしい顔をした。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!