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奇妙な依頼。
こんこん、とドアがノックされ、ルトがドアを開けた。
「お待ちしておりました。レイチェル=サティード様でいらっしゃいますね?」
丁寧に頭を下げ、ルトが招き入れたのは、きらびやかに着飾った、教養のありそうな婦人だった。指輪をしていないところからすると、未婚の女性らしい。歳はまだ二十代前半だろうか。
台所からカイが現れ、婦人の前のテーブルに、綺麗に盛り付けられたクッキーとアプリコットのジャムを置いた。
「あら、ありがとう。これは……何のジャムかしら?」
カイが置いたジャムをまじまじと見つめながら、少し弾んだ声で婦人が問う。
どことなく少女のような女性だな、と僕は思った。
「あ、お気に召されましたか?今朝こさえたばかりのアプリコットジャムですよ。どうぞ、お召し上がりください!」
カイがはつらつと言うと、婦人は微笑して頷いた。
「ミコト、ナツメと僕の予約してた本を取りに行ってくれないか?」
部屋の端ですべきことが分からずうろうろとしていたミコトに、ルトが声を掛ける。
「非道いッスよ!確かに邪魔かもしれないッスけど、厄介払いッスか!」
客がいるというのにミコトは大声で反抗している。ルトは呆れ顔で、婦人に断りを入れて席を立った。
「ミコト、本当に本を取ってきて欲しいんだ。もう受け取り期間を1週間も延ばしてもらってるから、流石に取りに行かないとなんだよ。でもこの通り手が空いてないから、お願いだよ。」
ミコトは、少々不服そうなものの、トレードマークの赤と黒の猫耳ボーダーマフラーを首に巻き直すと、ナツメを呼んで屋敷を出ていった。
「……失礼致しました。では、お話をお伺いしましょう。」
席につくと茶色い革の手帳を開き、ルトが切り出す。アリアはテーブルの端にある椅子に、僕はルトの隣に座っていた。
「とても恐ろしい人に出会いました。」
婦人は言った。
まず、私の身の上からお話しましょう。私はサティード家の一人娘で、父はそこそこ有力な男爵でした。時々、有名貴族の集まるパーティに着飾って出向いたりしていたものでした。
その人と出会ったのも、貴族の集まるパーティでのことです。
半年ほど前だったと記憶しています。
私は開かれたパーティで数人の方とダンスを踊り、お酒や、料理を楽しんでいました。
すると突然、背の高い優男に肩を叩かれました。
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