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「離せ、離さないと後悔するぞ! 」
がやがやと人だかるギャング街に、少女の声が響いた。
見ると、赤いひらひらしたドレスを身に纏った、金髪のローレの少女が、サングラスの男に腕を掴まれていた。
「流石に大衆の目前では異能力は使えんだろう。大人しく来い!」
男が少女の腕を引っ張る。すると少女が突如男の手を振り払い、細い足で男のすねを蹴りあげた。
不意討ちを食らってよろめいた男をすり抜け少女は、人だかりをかき分け、一人の少年の腕を掴むと一目散にギャング街を走り抜けて行った。
「ちょ、ちょっと君! 一体何が……!」
ギャング街から外れ、森の入口まで来たとき、少女の手を振り払い少年が立ち止まった。
「お前は他と違う特異を持っている。」
少女が低く言う。
「特異…って、僕は普通の学生だよ?」
まさか、こんな劇的な場面が現実にあるとは思わない。少年―――青波 京壱は息を切らせながら少女に問う。
「率直に言おう、お前は人ではない。」
「……は?」
余りに現実味のない話に、京壱は困惑する。この少女は自分をからかっていて、先程の男も仕掛人だったのではないかとさえ思えてくる。
「今まで、原因不明の事故などがお前を発端に起こったことがないか?」
無いと言えば嘘になった。珍しく親と揉め事をしたとき、叫んだ瞬間近くで炎が上がったりしたことが数回あった。しかし、いずれも何かが引火したのだろうとか、火の元の不始末だろうとかと、親も周りも全く気に止める様子はなかった。
まさかこの少女は自分が手も触れずに火をつけたとでも言うのだろうか?
困惑していると、少女は白い指で森の奥を指差した。
「私の名前はアリア=ヴィクトール。この先の森に、私の仲間たちが住む屋敷がある。お前を異端士として仲間に紹介したいんだ。来てくれないか。」
透き通るような碧眼が自分を直視する。
否とは言えず、結局その屋敷に行くことになった。
それから、この少女―――――アリアと、異端士だという謎の多い人物に振り回される日々が続くことになったのだった。
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