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すぐに運転席のドアが開く。
SUVの高級車から下りてきた新城は運転のしやすいカジュアルなセットアップにサングラス姿だった。
一般人がやっていたら鼻につくようなスタイルだが、新城がするとナチュラルすぎて見惚れてしまう。
現に脇を通っていった女性が、新城の方を二度見していった。
「すみません、待ちましたか」
新城はサングラスを取ると、ふわりと笑みを浮かべながら瑞希の方へ近づいてきた。
その笑顔に撃ち抜かれたかのように、急激に心拍が速くなる。
「別に…」
瑞希は高鳴る鼓動を隠すようにぶっきらぼうな返事をした。
「どうぞ」
かわいくない瑞希の態度に臆することなく、助手席のドアが華麗に開かれる。
わざわざそんな事をしなくても自分でできるのに、新城はいつもこの動作を欠かさない。
まるでお姫様扱いだ。
瑞希が乗り込むとドアが閉められ、新城も運転席に戻ってきた。
「海まで少しかかりますが大丈夫ですか?眠っていてもらってもかまいませんので」
「寝るわけないだろ」
瑞希はふん、と鼻を鳴らすと傲慢な態度で腕を組んだ。
せっかく好きな相手とドライブに来てるのに。
とつけ加えれば恋人の会話として完璧なのに、言えない自分がイヤになる。
瑞希の言葉に新城はフッと笑うと静かに車を発進させた。
しばらく街中を走ると、インターから高速に乗り、車は道なりに進んでいく。
車内は時折カーナビの案内音声が聞こえてくるだけで、会話らしい会話はほとんどない。
もっと話題を考えておけばよかった…
瑞希はシートの中で小さくなりながら唇を噛んだ。
よく考えれば車の中はほぼ密室状態。
しかも高速という変わり映えのない場所を走っているため、景色を話題にすることもできない。
ドライブデートで会話のない恋人同士なんて普通いないだろう。
髪型や服装しか頭になかったことを後悔する。
さすがの新城もこんな重たい空気のドライブなんて嫌だろう。
もしかしたら、もう帰りたいと思っているかもしれない。
瑞希は新城の顔色をうかがおうとチラリと運転席の方に視線を流した。
すると、同じようにこちらを見ていた新城の目と視線が絡む。
すぐに視線は外れたが、その口元は笑みの形になっている。
「っ…ニヤニヤしてなんだ」
「すみません。今日も美しいなと思って…見惚れてました」
いつもの新城節に瑞希の顔はたちまち熱くなる。
「は!?馬鹿な事言ってないでちゃんと前見て運転しろ」
瑞希の言葉に新城はくすくすと笑った。
舌打ちをしながらも内心ほっとする。
つまらなさそうな表情だったらどうしようかと思っていたからだ。
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