ドライブデート

4/15
前へ
/607ページ
次へ
車は休憩のためにサービスエリアへと入った。 「トイレに行ってくる」 少し緊張が解けた瑞希は新城に告げるとトイレへと向かった。 用を足し、手を洗いながら鏡を見るといつも通りの自分の顔が映っている。 失敗した髪型も今のところなんとか大丈夫そうだ。 あとは何か車中で少しでも会話らしい会話ができたら完璧なのだが… 考えながらトイレを出ると、目の前に売店の入り口があった。 運転させっぱなしだしコーヒーでも買っていってやろうと中に入ると、そこには沢山の土産物が並んでいた。 あまり外に出ない瑞希にとって、どれも珍しいものばかりで買う気がないのについつい見入ってしまう。 数分後、瑞希はコーヒーを買うと急いで車へと戻った。 ところが、そこには予想外の光景が広がっていた。 車のそばにいる新城を、数人の女性が取り囲んでいたのだ。 嫌な予感がする。 いや、もしかしたら仕事上の知り合いかもしれない。 たまたま偶然ばったり会って声をかけられたのかも。 瑞希はそっと近づくと聞き耳を立ててみた。 「どこから来たんですか?」 「どこに行くんですか?」 「お仕事何されてるんですか?」 女性たちはきゃあきゃあと色めきながら新城に質問攻めしている。 いわゆる逆ナンというやつだ。 新城はというと、女性たちを邪険にすることなく丁寧に答えている。 確かに新城の容姿は目立つ。 一人で立っていたら声をかけたくなる彼女たちの気持ちもわからなくはない。 だが、瑞希からしたら決して気持ちのいい光景ではなかった。 イラついた瑞希は舌打ちをすると、助手席に乗り込み、乱暴にドアを閉めた。 それに気づいた新城が女性たちをかわしながら運転席に乗り込んでくる。 「迷いましたか?」 女性に囲まれていたことを謝罪することも言い訳することもなく新城が訊ねてきた。 「……」 新城は何もやましいことはしていない。 ただ聞かれていた質問に答えていただけだ。 それはわかっているのに、腹の底は怒りとモヤモヤで沸々としている。 ここで怒りを爆発させればデートはたちまち台無しになる。 しかし、何ごともなかったかのように普通に振る舞える余裕もない。 瑞希は買ってきた缶コーヒーを組んだ腕の中に隠すと言い放った。 「寝る。着いたら起こせ」 全く眠たくなもないくせに瑞希はそう言うと、窓際に顔を向け無理矢理目を閉じた。
/607ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4428人が本棚に入れています
本棚に追加