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こみあげてくる感情としばらく戦っていたが、いつまでも自販機の前でもたもたしているわけにはいかない。
寝てしまった事で無駄にした新城との時間を少しでも取り戻さなければ。
瑞希は一度深呼吸をすると新城の元へ戻りはじめた。
新城との関係は瑞希が勝手にあれこれ想像して思い悩んでいただけで、実際のところは好調みたいだ。
それならもっと素直な自分を出してみてもいいのかもしれない。
もっと自然に、普通に、たとえば自分から好きだという気持ちを伝えてみたり…
そう思いながら駐車場から堤防に上がる階段を登り、砂浜へ続く下りの階段に足をかけた時だった。
新城の近くに人がいる光景が目に飛びこんできた。
サービスエリアで見た時のように、新城に向かって何かを話す人が二人組がいる。
今度は女性ではなく、若い男性だった。
黒いウェットスーツ姿で、脇にサーフボードを抱えている。
日頃から波に乗っているのか、二人とも引き締まった肉体をしている。
瑞希のいる場所から会話は聞こえてこないが、三人とも穏やかな笑みを浮かべているのはわかった。
またか…
新城の容姿に惹かれるのは女性だけではないという事なのだろう。
絡まれているわけではなさそうで安心するものの、さっきまで晴れ渡っていた気持ちにたちまちもやがかかる。
瑞希と会話をしている時はあんな風に自然な表情をしていない気がしたからだ。
それはもちろん自分のコミュニケーション能力が著しく低いせいでもあるのだが、やはり見ていていい気分ではない。
瑞希はむっ、とすると方向を変え車に戻ろうとした。
だが、はたと足を止める。
これではさっきと全く同じ状況ではないか。
不貞腐れた態度をしたせいで自暴自棄になり、あげく新城にフォローされ機嫌をなおさせて…
ついさっき反省したばかりなのに危うくまた同じことを繰り返すところだった。
瑞希はグッと拳を握ると、新城と男たちが話す方へ歩き出した。
近づくに連れ、彼らの話す内容が耳に入ってくる。
「いや〜、遠目で見ていいなって思ってたんですよ。マジで」
「でも彼氏持ちか〜。なら仕方ないな」
その言葉が聞こえてきた時だった。
何かに駆り立てられるように瑞希は真っ直ぐ彼らの間に入ると、新城の手をむんずと掴んだ。
「一鷹、早く行こう」
瑞希はキッパリと言うと、くるりと向きを変えて歩き出す。
唖然とするサーファーたちの視線が背中に刺さる。
瑞希は彼らが話しかける隙を与えないよう歩を速めた。
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