イトのお話

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はっ…と、まるで今目が覚めたかのように ぼくの視界はハッキリと周囲の色を捉えた。 暗闇が広がるはずであったこの部屋に、ロウソクの火がユラユラと光を魅せる。 橙色が儚い。 たった一つの小さな灯りは、どうやらこの部屋の全てを照らすには 足りないようだった。 やっぱり…少し暗いや。 まるで水から出され、弱った稚魚のようなそれからぼくは目を逸らした。 そして自分の手元にある物を仕上げるため、作業を再開した。 …ぼーっとなんかしていられない。 日が昇ったら、今度は畑仕事もある。 テキパキ…とまではいかないけれど、ぼくは、部屋の隅に積んだ藁を次々に消費していった。 両手いっぱいにして持って来た藁の山は、気づくと数個の入れ物に姿を変えた。 ほっと一息つく。 両掌は汗で湿っている。 額も同じくべっとりしていて、気持ち悪い。 手の甲で額の汗を拭い、掌はシャツで拭いた。 ちょうどそこで、ロウソクの火か消える。 フッと、音もなく。 薄っすらと明るかったこの部屋は、瞬く間に闇だけとなった。 …ちょうどいい。 今、仕事に蹴りがついた所だ。 ぼくは手探りで、妹や弟の眠る部屋の奥へ移動した。 朝日が昇るまでのあと2・3時間は、しっかり寝て体力を回復させなければならない。 そう思ってぼくは、気持ち良さそうに寝息を立てる彼らの横に、小さく小さく丸まって、瞼というカーテンを閉めた。 そして、すぐに夜明けは訪れた。
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