第1章

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 駅に着いた俺は改札を抜けた。完全自動化された改札は、脳内部に埋め込まれたICチップを自動的に識別している。つまり改札を抜けたことによって、俺の口座から僅かな金が駅の運営会社へと送られていた。  ホームは人で溢れていた。いつものことだ。人口が多すぎるのだから当然だった。人でごった返すホームで待つこと一分。電車が駅へと到着した。超電導リニアカーだ。走行時の摩擦抵抗はまったくない。おかげで電車の走行速度は時速五百キロを越えた。それでも走行時の揺れはほとんどなく、快適な旅が約束されている。ただ、車内が満員でなければの話だが。  俺は男性専用車両と書かれた車両へと入った。汗臭い匂いでむっとする。しかしこれも仕方のないことだ。女性と同じ車両に乗ること自体セクハラになる時代なのだから。  目的の駅まではおよそ十分ほどで到着した。途中、五つの駅で停車し、その度に車内の人口密度は増していった。俺の降りる駅は都市の中心部。商業都市の入口にあたるから皆、そこで降りた。いや、降りたというよりも流れに身をまかせたと言ったほうが適切だ。人であふれたホームから改札の出口までは何もしなくても押されていくのでただその流れに乗るだけだった。  改札から吐き出されるように俺は街に出た。会社まではタクシーに乗る。これも自動化されたロボットタクシーだ。駅前のロータリーで後部ドアを開けて乗客を待っている一台に俺は乗り込んだ。 「ドチラマデ?」  運転手が振り返って人工音声で問いかけた。その顔は白人の二枚目男性をモデルにしている。本当ならこんなロボット臭い声で話し掛けずに人間らしい合成音を出すことも出来るのだが、それをすると人間とロボットの見分けが付かなくなるので今でも人工音声のままだ。 「会社だ」  俺が言ったのはそれだけだった。すでに車内に設置されているセンサーによって俺の個体は識別されている。会社だと伝えるだけで、俺の個人データベースをロボットは検索し、会社がどこにあるのか、どういったルートを通るのが最短なのかを導き出している。
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