紅蓮音エド

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ホバークラフトユニットが青白いスラスターをふかす足元、はるか下方で爆竹が弾けたような音がした。たぶん、乗ってきたトラックに敵弾が着弾したのだろう。確か着弾予測は直撃だった。 ―――もともと乗り捨てる予定のものだったから正直どうでもいい、 そう思えるまでに人工知能が落ち着きを取り戻し、痛みや苦痛の類いが消え、体の自由が戦闘本能たる電子頭脳から戻ったたエドは、そのときになって初めて下方の戦場を見渡した。 確か一時の方向に展開していると言っていた戦車部隊が、おおよそ十二時の方向、つまるところ真正面下に10から20。バイザーに表示された情報から、米軍の最新鋭戦車であることがわかる。 型式不詳。たぶん、自分と同じだなとエドは思う。 視点をずらして十一時の方向、そっちにはぽつぽつと豆のようにまばらに歩兵のヘルメットが見えた。先導するのは軽戦車が三台、連中はそれを盾にして進軍を続けている。 どうも、自軍は押されているようだ…と判断するに、その光景は十分すぎた。なんというか、相手は大波だ。全てを一気に飲み込んでしまえるだけの勢いが、攻撃に質量がある。 あまり猶予が残されていないことを計算するまでもなく視覚で感じたエドは、では十一時と十二時、どちらを攻撃するのが良いのかを考え始めた。 戦力的には圧倒的だが動く気配に乏しい重戦車部隊か、目下自軍を押し戻している歩兵部隊か。 後方待機を決め込む戦車部隊の腹は未だ読みかねるが、だとすればとりあえずでも歩兵部隊の頭を押さえておくべきか。 進軍の勢いが止まればそれを打開するために戦車部隊も動き出すだろうからそうすれば同時に相手ができて一石二鳥という考え方も… と、そこまで詰将棋のようなことをやって、エドは考え悩むのをやめた。 少し高度を上げ両展開している部隊をまとめて視界に入れたことで、 ふと、もっとも簡単で単純、かつ決定的なな解決策が頭に浮かんだからだった。 ―――どっちも潰せばいいではないか。
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