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別にどっちかにこだわらなくても、いっぺんに両方ともの相手ができれば…何の問題もない。悩む必要性もない。
どうやら、自分は少し自分を忘れていたらしい。思い出せ。自分は今世界で最も完璧な兵器だ。
相手が歩兵だろうが、戦車だろうがあまり関係のないことではないか。
中身は人間、たかが人間の操る戦闘単位に過ぎない。
基盤は脳幹、マニピュレーターは肉体、そんな不完全で不安定な兵器群が二つに分かれて固まっているくらいが一体何だというのだ。
鉄の鎧をかぶっているからどうしたというのだ。大砲があるから何かが変わるとでもいうのか。
豆粒のような人間の頭を見下ろすうちそんな自問自答が頭をめぐるようになり、エドの人工知能には圧倒的な余裕とともに再びさっきまでの人間に対する優越感が帰ってきた。
ちらほらとこちらに気づく兵士が現れてきて、何かサーカスか道化でも見ているかのような唖然とした顔を上に向け始めたのが感じられると、彼女の人間に対する嘲笑は加速する。
―――信じられないと思うか?どうだ、だが現実だ。
音速で行動できる人間が?空を飛べる人間が?銃弾を回避できる人間が?死への恐怖から逃れられる人間が?完全に良心の呵責…人間性を完全に捨てきれる人間が?
いない。そんな人間はこの世に存在しない。仮にこの中で一つ二つ可能なことがあったとしても、全部を持ち合わせている人間など存在するはずもない。
そんな真似ができるのはたぶん今この世に自分一人だ。世界最高のヒューマノイド兵器である、この紅蓮音エドだけだ。
この差がある限り、自分は人間に対して、圧倒的優位を誇ることができるに違いないのだ。
「慌てるな……今からそっちに行ってやる。」
一人、気が狂ったようにはしゃぐ歩兵がいるのを見つけて、エドはそうつぶやいた。
その興奮を今から恐怖に変えてやる。待ってろ。
人工知能に浮かんだそんなセリフは電気信号に変換されて、人間でいうところの口角を笑みの形に、引きつるようにゆがませる。
完全にエドの意思とリンクしたその重厚な兵器群が、まるで彼女の手足のようにそれに従って潤滑に動き出した。
ガトリングの重心が、鉄パイプを叩きあったような乾いた音を立ててカラカラと回り、初弾が装填された。背中からファンネルビットが六基、背後に扇形で展開した。グレネードの安全装置が外れた。
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