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<All Right>の表示が黄緑の視界の中心に光り、すべての態勢が整ったことを電子頭脳が告げる。続けて表示された<攻撃開始?>の質問コマンドに、
エドは声には出さず、人工知能の中で「無論だ」と返事した。
肌をさすように冷たい木枯らしも、殺伐とした雰囲気の戦場にはおおよそ優しすぎる柔らかな陽光も、すべて遮られることなく、軍靴に踏み分けられ泥交じりとなった黄金色のすすき野に向かってまっすぐ下っていく。
自分と敵を隔てる空間に、自分を遮るものは何もない。条件は整った。
「紅蓮音エドより司令部へ。攻撃を開始する。」
半ば早口に要点だけを、顔の前にせり出したつくしのような形のマイクロフォンに吹き込んだエドは、再度襲ってくるであろう空気塊のナイフに備えて防護コートを体に巻き付け、下方をきっと睨み付ける。
彼女の戦闘意欲を示すかのごとく、三度視界が真っ赤に染まった。
モザイクをかけるようにバイザーの画面上をびっしりと埋め尽くした円形の光は、歩兵か戦車か大砲か、いずれも攻撃対象となりうるものを示していたが、
そのうち目標として設定されていうことを示す小刻みに点滅するものは、その視界の中心に捉えられた一点しかない。
―――まずはお前からだ。
狙うべき最初の照準を例のやかましく騒ぐ一人の兵士に絞ると、人工知能が示したある種の興奮によって白熱気味になった身体に軽い電流が走って、
直後背後で起こった爆発的なスラスター光がエドの体を下方に広がる空気の海に向けて弾き出す。
耳の真横で銃をぶっ放したような衝撃音がしたのも束の間、漆黒のコートを身に纏い鋼鉄の弾丸と化した彼女は、彗星の如き閃光をあとに引きながら、
落下重力をも味方につけ硝煙の漂う寒空を一刀両断に切り裂いて目標としたただ一人の兵士の方へと寸分のロスなく驀進した。
重厚な空気の壁を突き破るために喰らった衝撃波は、頭のてっぺんを摩擦によって熱し、首や肩に人間ならとうに四肢が分解しているであろう空気抵抗と重力の負担を課したが、
人間ならアドレナリンに相当する、それらを全てかき消すほどの膨大な戦闘意欲に満たされたエドにはさほど関係のない話だった。
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