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音が遅れてついて来るくらいの瞬間速度でほぼ直角に急降下したエドは、すすきと鼻の先が擦れ合うくらいスレスレのところで脇腹の補助スラスターを地表に穴が空くくらい最大噴射し体を一気に起こすと、
ほぼ全方向、バイザーを通して見る視界360度を満遍なく埋め尽くした敵の所在を示す幾数もの光円を、しかし全く相手にすることなく、真正面に捉えた点滅する光源、唯一照準に設定したさっきのやかましい兵士ただ一人にそれを絞って更なる接近を開始した。
度重なる加速でオーバーヒート寸前のスラスターは切り、代わって作動したホバークラフトユニットが脚底から体をふわと数センチほど浮き上がらせ、エドの体を巻き起こった砂煙とともに前へ運ぶ。
正面に捉えたその白人兵士の顔はすでに真っ青になるまで血の気が引いていて、銃尖の照準が手の震えからかまったく定まらず、指が硬直して動かないのか引き金を引く様子もない。
断末魔のごとく何か言葉にもならない悲鳴を上げて逃避の術を目線で探し体を硬直させるその様は、エドにとってはさながら喉笛を噛みちぎられる寸前の小鹿のようで。
ーーーそうだ、その顔だ、もっと泣き喚け、叫べ。
弄ぶように、恐怖を煽るように、ギリギリまで間合いを詰めにかかる。簡単に終わらせはしない。
今エドには敵や味方、勝利や敗北、そんな人間の利損の概念はもうどうでもよかった。ただただ、人間を嘲る、卑下する快感が身体を満たしていく。戦闘意欲に変換されていく。その感覚が心地好い。機械仕掛けの人工知能を凍るようにゾクゾクさせる。
ひゅん、と頭上や肩口、背後など、普通なら身の危険を感じていいくらいの至近距離で銃弾らしいものが風を切っても、
敵味方は知らず、戦車から飛んできた砲弾が地面に突き刺さって跳ね上がった泥をもろに被ることになっても、
そしてそれが原因でバイザーが引っ切りなしに赤点滅を繰り返したとしても、エドの脚は止まることはない。
かすめるぐらいの弾なら防弾コートがあるから当たってもたいしたことはないし、直撃弾だけよけれていればよい。ただ一つ、戦車が吹っ飛ばしてくるバカでかくて重たい鉄の弾にさえ気を付けていればそれで…
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