紅蓮音エド

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「…いいか、プロトタイプ。 これから行うのは米軍との模擬戦闘訓練だ。 相手は第三海兵機甲師団、精鋭ぞろいの戦車歩兵部隊。場所は赤岡陸防訓練場、四方に視界を遮るもののない平原地帯…と、いちいち説明しなくても送信済みのデータで既に確認済みだろうが。 貴様の任務はその戦闘能力をもって可能な限りの敵戦車の無力化し、敵本陣への攻撃の突破口を開くこと。以上。」 聞き取るのも億劫になるような酷いノイズを伴って、司令部のオペレーターからの指示は、彼女の聴覚を司る電子基盤を「音声データ」として巡り、収まる。 全く同じ事を出撃前に聞かされ、しかもオペレーター自身も言っていたようにデータは全てインプットが済んであるという現状にあって、わざわざ無理をしてまで伝えるべき内容でもないと思った彼女は、 その程度の漠然とした指示しか送れないほど現場との意思疎通に四苦八苦しているらしい司令部の、あたふたとあわてふためき混乱する様子を想像して嘆息し、 とりあえず適当に「了解」というコマンドを返しておいた。 戦場に設定されて既に幾許かの時間が経過しているこの周辺は、妨害電波の海と化していて、トランシーバーや無線機の類いはほぼその役割をほぼ果たさない。 たぶん、双方ともが情報戦の時代を全く無に帰すような通信妨害の新兵器を投入しあっているのだろう。 送られてくる電波をそのまま、脳たる人工知能に反映させる直接性、あるいはわずかに残った声だけを拾い上げる事のできるノイズキャンセル機能がなければ、いったい司令部が何をどうしろと命令しているのか皆目見当がつかなかったと思う。 自分ですらこんななのに、生身の肉体…耳と呼ばれる不安定かつ脳の受け取り方によってどうとでも変化してしまう集音器しか持たぬ歩兵にとっては、 前に行けばいいのか退くべきなのか攻撃するのか撤退するのか、そういった上からの指示が全く通らないこの現状は、さぞかし絶望的なものにちがいない……… と、そんなことをぼんやりと考えた彼女は、 恐らく今現在も最前線で、まともな言葉を喋らない通信機と格闘しているのであろう末端の歩兵達にほんの少しの同情を傾けた後、 それに対比して、身体の尽くを最先端技術で固められ現状の把握ををほぼ不自由なく全うできる自分という存在に彼女は優越感を持った。
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