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…いや、優越感というよりは、彼らへの嘲笑を含んだ侮蔑と表現したほうが近いのかもしれない。
―――人間ほど不安定で性能の悪い兵器もない。
彼女の今の心もちを一言で表現するなら、そんな風だといえる。
真っ暗な兵員輸送用トラックの、地震か何かのように激しく揺れる荷台、
後方の幌のかかった部分へと這いよって暖簾を上げるようにそれを捲し上げて外の様子を覗き見ると、
轍ができて笹が踏み倒され、水たまりが泥になったところをたところを追従するように中腰で走ってくる歩兵が何人か目につく。
皆、そのバックパックの重さに耐えかねてか、それともその手に持つ工作業用のドリルみたいなライフルが手の動きの邪魔をするからなのか、苦しそうに、やり辛そうに息を切らして顔をへの字にゆがめていた。
明らかに普通に走ったほうが楽そうなのにそれをせず、腰の丸まった老人のような格好をとっているのは弾に当たらないようにするためか、それともそもそも見つからないようにするためか。
意思疎通ににしろ実際行動にしろ、肉体や脳幹といった曖昧かつ汎用性耐久性のない部品に頼る他なく、
戦闘において主力であるにもかかわらず少しばかりの不都合で戦闘力の著しい低下を招いてしまう彼らが、
彼女には滑稽に思えてならない。
―――通信機器が使えなくて状況把握ができないというのなら赤外線センサーでも望遠装置でもなんでも使って自分で調べればいいし、なんなら偵察衛星に直接アクセスでもして上から全部覗いてやればいい。
そうやってこそこそ走るのがしんどいのなら、手っ取り早く空でも飛んでさっさと敵のど真ん中に突っ込んで見せればいい。弾に当たるのが怖いなら避けて見せればいい、敵に見つかろうが何のことはない、先に倒してしまえばいい。
根本的なことを言えば、別に敵の様子を伺う必要もそもそもない。行き当たりばったりで不利な状況に陥ったところで、壊れなければ同じこと。
弾なんて、当たらなければどうということはない。
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