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もちろん、人間にそんなマネができないことくらい、彼女もわかっている。
眼球という生物的なカメラ組織ではは望遠も特殊な観測もできない。音速以上のものを捉えるほどの能力も持たない。仮に見えたにしてもそれを避けるだけの反射もなければ機動力もない。
単体では束には勝てないというのもまた然り。
あくまで自分の中の常識。ゆえの、嘲笑。
肉体なんていうものしか持たないから、そうやって泥に汗を垂らして地べたで顔を洗い、這いずり回って隠れもちながら行動するしかないのだ。補助要因的な機械の良し悪しにに縛られて、行動に不自由が出るのだ、と。
―――それに。
万一弾に当たったとして、それで負傷…故障したにしても、瞬時に撤退してまた直せばいい。
何なら、代りがいるのなら別に自分がどうなろうが関係ない。湧いて出るほどの機械の一つが壊れただけの話。
死ぬ、という概念が存在しない自分にとっては、自分が壊れようが何しようが、そのあとのことなど知ったことではない。
「…無様な。」
戦場が近づき、銃声が近くなり、更に腰を低くし始めた後続の一個小隊の様子を幌の切れ目からバイザーごしに見下ろしつつ、やはり彼女はせせら笑った。
あちらこちらから花火が点火された時のような爆発音が聞こえ、数秒後にだいぶ向こうのほうで水柱ならぬ土柱が泥の噴水となって立ち上る。
不意にひゅん、と流れ弾が空気を裂く音がすると、戦闘を歩いていた隊長らしき男が「伏せろ!」と叫んで全員が弾けるように匍匐前進の体制をとったが、
それが彼女には空気を求めて陸に上がった亀のように見えて、瞬間、まるで喜劇でも見ているような滑稽さがこみあげてきた。
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