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…だが、それを人間を侮蔑する材料にはしても、悲観はしない。
そのおかげで、自分は今圧倒的に人間よりも優位な立場にある。
連中が血汗を垂れ流しつつこそこそと、自分の生命維持と戦闘の効率化を肉体という性能の悪い武器の器の中で必死に計算している間に、
また、命令の来ない不安さ、状況の把握できないいらだち、被弾への恐怖と戦っている間に、
自分は与えられた役目を人間よりも確実にかつ大胆に、速やかに遂行することができる。
人間がたかだか300メートルを一分かけて進む間に、自分はゆうにその100倍ほどの距離を進むことができる。
敵の位置を知ろうと躍起になっているうちに、相手の体温までも測ることができる。
指示を受けようと無線機に耳をくっつけているうちに、一言一句を解読することができる。
弾をいかに当たらないように進むかを必死に図っているうちに、十字火線を完璧によけきって敵陣に突っ込むことができる。
進軍か、撤退か。そんなことをちんたらと精査している間に、敵を全滅することができる。
そして。
人間が人間を殺すことをコンマ一秒迷ううちに、自分は確実に急所だけを狙い、躊躇なくその息の根をとめることができる。
人間がそういう殺戮兵器的な要素を、自分という存在を望むがゆえに、
自分はこうして連中が泥水を啜っている様を指をさして笑っていられる。
死にたくない、死なせたくない、そんなどこかに残る良心に足を引きずられてもがき悩む様を見下ろして軽蔑できる。
自分は今、「人間性」という戦場で欠片ほどの役にも立たない、
精神の重石に全く縛られない、世界一優秀な兵器だ。
たぶん、どこのどんな優秀な兵士でも到達したことのない境地に立った、完全無欠の自律型の戦略兵器だ。
人間が望む最高の形態の…戦闘用ヒューマノイド、
私が紅蓮音エド、だ。
「い…か、プロト……プ。発進30秒…だ。トラックは無人走行、…り捨てればいい。
貴様…現…ポイントから一時の方……戦車部隊…ただちに殲…し、本陣を叩け!」
軽いドラムを高速連打するような、腹に響く銃声がほど近くなる中、かすれ気味になったオペレーターの指示が再びエドの電子基板を震わせた。
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