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―――ヤブ医者め…ここぞとばかりに完璧にチューンナップしてきやがったな。
恐ろしいほど全く一つも不具合を感じない、却って不自然にも思えてくるそれに、エドは軽く悪態をつく。
これまで試験期間は一度だってどこかしらに不調がないなんてことは無かったのに…と何度も不採用の烙印を押されかけた記憶を苦々しく思いつつ、
もう一度幌のほうへと歩いていって最終の指示を待つ。
たぶん、そこまで気合が乗るほど今回の戦闘は重要な物だということなのだろう。
自分が兵器を続けられるか、スクラップになるか、人間でいうところの生と死の分かれ道か…できれば、この人間に対して優位である状況は継続しておきたいものだが。
18、17と視界の右上の数字が減っていく。人間ならこういう時は覚悟でも決めるか心でも落ち着けるのだろうか。
だが、機械である自分にはあまり関わり合いのない話だ。目的さえはっきりしているのであれば、やることはやり遂げられるし何か邪念が特別湧いてくることもない。
壊すこと、殺すこと、それ以上に意識する必要はないのだ。
発進までおよそ15秒…スラスターに火を入れ臨戦態勢、ガトリングガンの安全装置を解除しあとはもう飛び出していくだけ。
体を小さく丸め、急発進に備え対Gの体制を作り時を待つ。13、12、カウントゼロとともに天井を破って発進、もうあとほんの少し…
と、カウントが残り一桁になった次の瞬間、突如としてエドの頭蓋を形成する人工海馬の中で、敵弾接近を示すアラート音がけたたましく鳴り響いた。
「!!」
跳ね上げるように顔を上げ、丸めていた体を一気に元に戻す。
何事か、などと自分の感情などの人間かぶれした部分である人工知能が動揺を示すより先に、兵器としてのじぶんの全てを掌る機関、電子頭脳が条件反射的に起させた反応だった。
黄緑一色に染められていた視界は危険を示す赤色に変色し点滅し、光文字が<敵迫撃砲弾、直上>を示す。
着弾予測、直撃、およそ二秒後。
コンマ01秒の間に電子頭脳に流れ込んできた簡易かつ的確なそういった情報は、エドに自らの窮地を瞬時に悟らせ、同時に瞬時の判断と行動を促した。
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