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「良かろう、では時は停止のまま、次元を地上に戻す。後に詳しく説明は施すが、あまり初戦から無理をせぬようにな。」
クロノスの声だけが、俺の耳にこだまする。俺は、発言こそしなかったが、大きく一度頷き、深く腰を落として剣を前方に向け、構えた。
次の瞬間、暗闇から抜けだした俺の目の前には、妖魔の姿があった。そう、俺に接触できるほどの距離までに迫ってきていたのだ。
咄嗟の事で判断が鈍ったが、慌てて背後に飛び退いた。
「なにっ!!?」
驚いたのは、妖魔に対してではない。自分自身の行動に対してだった。背後に飛び退いた俺は、せいぜい一歩下がる程度の回避を予想していたからだ。人間の身体能力からしたら、その程度を想像するのが当然だろう。
しかし実際は違った。俺は、身軽に宙に舞い、後方に一回転しながら十数メートルほど後方まで下がっていたのだ。
「なるほどね…。その適応能力なら、大神の器に選ばれるのも納得だわ。」
薺が小さく呟く。薺は、手を出すつもりはないようだ。ただ静かにそこに立ち、俺の様子を窺っている。
「この身体能力なら、やれる!」
俺は、妖魔の様子を窺いながら、戦略を企てる。
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